La Véritable histoire de la Belle Époque (Fayard, 2017)

Traduction en japonais par Noriko Teramoto

 2024年9月半ば、歴史家ドミニク・カリファの2点目の日本語訳書、『〈ベル・エポック〉の真実の歴史』を刊行します!

 折しも、ちょうどパリ・オリンピックが閉幕し、現在はパラリンピックが開催中という時期に本訳書が誕生することに、不思議なめぐり合わせを感じます。というのも、いまだ記憶に新しいあのセーヌ川沿いの開催式の舞台演出、フランスという国の文化を象徴するもろもろのイメージには、まさしく、本書で著者のカリファが描き出した〈ベル・エポック〉という一時代をめぐる想像力が結晶していたからです。

 19世紀から20世紀への転換期、のちに「一九世紀の首都」(W.ベンヤミン)と呼ばれたパリを中心として、民主主義国であり帝国主義国であったフランスは経済的にも文化的にも黄金期を迎えていました。そこで人々が経験した〈近代〉の豊かさと明るさ、芸術的で自由な、放縦ですらある空気は、のちにやってくる世界大戦の塹壕と苦渋のなかに消え去っていきますが、その後もずっと、かつて在った一時代の空気として記憶されます。本書はこの〈ベル・エポック〉という想像物が、人々の記憶のなかで集合的に形成されて変貌していくさまを、膨大な資料と固有名をもとに歴史学的にたどった労作です。

 戦後日本の高度成長期、さらには1980年代の〈ジャパン・アズ・ナンバーワン〉の時代を知る世代にとっては、「あの頃はよかった!」「素朴だけれど楽しかった!」というふうに、「昭和」後期のやけに明るかった時代、失われた時代が懐かしく思い出されることがあるでしょう。本書を読むと、そうした経験がオーバーラップするかもしれません。イデオロギーとは関係なしに、民衆の作りあげたある種の〈夢〉に寄せる著者の思いに打たれる1冊でもあります。

「哀惜とノスタルジーをもって回顧される〈美しい時代=ベル・エポック〉。1900年前後から第一次大戦勃発までの一時期、第三共和政フランスの産業社会が爛熟し、パリの芸術文化が黄金期を迎えた頃をさすこの概念はどのように生まれ、人々に共有されたのか。二つの大戦と占領の苦難を経て、大衆の想像力と集合的記憶のなかで古き良き過去が懐かしまれ、物語られ、再演・表象される歴史をたどった野心作。」

https://www.h-up.com/bd/isbn978-4-588-01172-6.html